その男、跡取りにつき 木の 「さて、やるか」 少年は高らかに手を打った。 ◆ ◇ ◆ ◇ 「これが、ホールトマトのぴり辛ゼリー」 「………」 「んで、これは栗の甘露煮」 「………」 「これはナタデココの梅干和えね」 少年がひとつひとつを指しながら説明していく。 その言葉は、等間隔に並べられたその物体をしげしげと眺めている少女の耳を右から左へと通過していった。 「さ、遠慮なく食べて。感想を聞かせてよ」 さあさあと勧められる皿を両手で軽く押し返しつつ、少女はどうにか 「…ちょっと訊いてもいい？」 「ん？」 「自分で味見、してみた？」 「してみないよ」 心からの願望が込められた質問に対し、返ってきたのは春風の なんてこったいという 少女の目の前に置かれた皿の上に鎮座するのは白地に黒が入った三角形――俗に言う「おにぎり」というやつだ。 これから我が身に起こる異変に生唾を飲み込んだ少女の名はあやか・s線子。 少女を未知なる世界へと導かんと手を取っているのは細々村にあるおにぎり屋「コツミタイ握り☆」の一人息子、がい・コツミタイ。 「がい君、私にごちそうしてくれるって言ってたよねぇ？」 「うん？」 「私、実験台になるためにわざわざ呼び出されたわけ？」 眉を 「実験台なんて失礼だな。俺の最新作を一番に食べさせてあげるんじゃないか」 文句をいいながらもその手は新たな創造物を作り上げるべく動き続ける。 少女が手を出すのを 「どうしたの、食べないの？」 懐疑的な表情のまま動かない少女を見て、少年は首を傾げた。 「毒なんか入ってないから大丈夫だって」 それ一つ一つは美味しいものであっても、組み合わせによっては殺人的なものを作ることが出来るということを少年は分かっていないようだ。 まるでお手本を見せるように手近にあったおにぎりを掴んで一口ほおばる。 「うーん、なかなかの出来かな。でも、もうちょっとインパクトがあるほうが…」 などとぶつぶつ呟きながら食べ続ける姿を見て、少女は溜め息をついた。 「それ以上インパクト与えてどうするのよ…前々から思ってたんだけど、がい君の味覚って、どうかしてるわ。今は大繁盛のコツミタイ握り☆も先行き不安ね」 「なんだよ、それ」 「こんなおかしな味覚の持ち主が跡取りなんて、お店潰れるわよ」 「俺は普通だよ。どこがおかしいのさ？言っとくけどな、今店頭に並んでるおにぎりにだって俺が作ったものもあるんだぞ」 「だから、作る技術に関しては文句はないわよ。ただ新商品を考える能力がないってこと。だってスパゲティはわさびが美味しいんだとか言うし」 「そんなの、あやかちゃんの方がオカシイじゃないか。醤油スパゲティだって？絶対ヘンだよ」 傍から見ればどっちも同じようなものだが、本人達はそうは思っていない。 以前もこの話題で20分ほど議論をしたことがあったが、結局両者引き分けで確固たる結論は出なかったのだ。 議論再び、わさびだ醤油だと言い合いが繰り広げられる中でおにぎりは外気に おにぎり屋「コツミタイ握り☆」の行く末は定かではない。 4000打 月下雪花様に捧ぐ あとがき この短編は4000打を踏んで下さった月下雪花様に捧げたいと思います。 お題は、月下様のサイト【天使の城】で連載中の「棒人間の冒険」登場人物の番外編、ということで。 人様のキャラ動かすのって初めてなので手探りでやってみた結果、こんなの出来上がりました…一応設定は間違ってないはずなんですが(汗)。 月下様、こんなん出来上がってしまいました…(逃亡)。 |